第三十一号 頑張る人達へⅲ
昔から、なくて七癖と言いますが、改めて、皆さんは自らの癖と向き合ってみたことはありますか。癖は広い意味での習慣性だと言っても、まんざら間違えてはいないと思います。良い習慣は長い人生を送るうえで、とても心強いものであり、自信にもつながります。その反対に、悪い習慣は一日も早く改めたいものです。
しかし、悪い習慣性が身につくことは易く、悪い習慣性を改めることは難し(かたし)ではないでしょうか。「そんなことは言われるまでもなく、自明のことだよ」と思った方も多いことでしょう。
私はまさしくこの悪い習慣性が元で、病気になりました。『生活習慣病だろ』という声が聞こえてきそうです。その通り!生活習慣病の一つ『糖尿病』に罹患し50歳の時に『1種1級』という障害者手帳を貰いました。
1種という意味は、移動時に公共の交通機関を使用した場合、障害を持った人だけではなく、介助者もその料金が半額になるという意味です。1級という意味は、目の状態が最も悪く、どんな治療を施しても治らないという意味です。
初めの詩は、視覚障害を持ったことへの千態万状な気持ちを書いてみました。どうぞ読んでください。

※ 千態万状(せんたいばんじょう):種々さまざまの状態。千状万態。

〈それでも頑張って生きている(頑張る障害者編)〉

みんな頑張って生きている
障害になんか負けないで
数え切れない不安と
闘いながら
いくつもの涙を流して
心の闇は
かき分けかき分け
全身でもがいて生きている
生きる意味など
考える余裕もなく
・・・・
ある朝
勇気を絞り出して
玄関から一歩二歩三歩と踏み出すと
全身が
柔らかな光に包まれた
視覚では
認識できなくても
どこまでも続く
空の青さが
心いっぱいに広がり
やがて海に沈みゆき
空の青さと
海の青さが
出会い重なって
地球を青く染めて行く
青い地球と
地上の星
いくつもの命に
溢れた地球
・・・・
僕は不安を背負って生きている
僅かな希望は
ポケットに押し込んで
抱えきれないほどの
悲しみにつぶされながら
時には立ち止まり
時にはジャンプして
見えない目を開け生きている
どこへ行くのかわからないまま
振り返り振り返り生きている
・・・・
ある朝
希望を見つけようと
窓を開けてみた
すると全身が
柔らかな風に抱かれた
その優しさに心は宙に舞った
その刹那時間は止まった
沈み行く身体
自由に馳せ回る心
両手を広げ
大気圏を抜け去ると
宇宙を飾る星たちと出会う
北極星の輝きに
力をもらい
衝突寸前の流れ星を
右手で払い
北斗七星に挨拶をして
ミルキーウエーの流れにのると
全身が花の香りに満たされる
そっと右手を伸ばすと
一輪の花に触れた
たった一輪の秋桜が
風に揺れ
僕においでおいでしているようだ
今にも折れそうで
それでいて
全身を風に任せて
リズムを取っている
まるで愛する人に
すべてを委ねているが如く
楽しそうに風に揺れながら
微笑む秋桜に
心を奪われ
一粒の涙が光る
その涙はどんな星よりも
美しく光り輝いている
柔らかな真珠のように
そんな小さな出会いが
心に満ちて
深い闇は晴れて行く

▽ 塩原センターや国リハでは、目を失くさなければ出会えなかった人たちとの出会いが多くありました。
特に国リハには、広大な敷地内の一部にある学院(国立障害者リハビリテーションセンター学院)と呼ばれる、福祉の専門学校があり、そこでは若い男女が学んでいました。
中には結婚後に夫の許しを得て学びに来ている人もいました。そんな人たちとの出会いはとても新鮮でした。
元野球少年に東京マラソンの伴走を務めてもらったり、野球には全く関心のない男の子に東京ドームでの『巨人対ヤクルト戦』の観戦に一日中付き合ってもらったこともありました。
『頑張る君へpartⅠ』のモデルの女の子は、見た目は長身痩躯で、大胆そうに思えましたが、繊細で優しい女の子でした。その女の子には、神奈川マラソン10kmの部の伴走を務めてもらいました。
次に紹介する詩のモデルは、小柄ですがパワフルで、口数は少ないのですがリーダーシップのある女の子でした。時々グラウンドで、ジョギングやウオーキングをリードしてもらったこともありました。
どうぞ読んでください。

〈頑張る君へpartⅢ〉

♪君の瞳は10000ボルト♪という歌を知っていますか
君の目の輝きは
丸で この歌のようです
胸に秘めた
真紅に燃える炎のような
暖かな光が見えるのです
そこに君の心を見たのです
だからこそ
誰もが君を慕うのでしょう
まるで
夏の朝を彩る朝顔のように
爽やかで
愛らしく
春の水辺に咲く
カタクリの花のように
可憐で
純な君は
僕の心を和らげてくれるのです
それでいて
頼もしさを感じさせるのは
君が持つ
決断力と
行動力から来るものなのでしょう
君がGROUNDに来ると
空一面を
覆い尽くしている
雲さえ消えて
skyblueに
染められてしまうほど
僕の心は
晴れるのです
・・・・
GROUNDを包む風は
君の優しさに溢れ
木々の囁きさえ
楽しさに満ちるのです
僕は君と出会えた喜びを
リハの森に溢れる
キンモクセイの香りに変えて
君の心に届けたい
そう思うのです
近い将来
社会で活躍し
幸せな家庭を作る
日のために
一つだけ
僕の話を聞いてください…
自分の目標に向かって
なんにでも挑戦するのはいいけれど
『ここが限界だ』と感じたら
さっと
引く勇気も必要です
自分を大切にするのですよ
なんだか
説教めいてしまいましたね
やがて君に
旅立ちの日がやってきて
別れ別れになっても
僕は君を
忘れないでしょう
頑張る君へ
空の青さを映す
君の瞳には
一点の曇りもないのです
それだから
無理せずに
しかし
思い切り走りぬいて
初志貫徹してください…
いつの間にか
自家撞着に陥ってしまいましたね
最後に
お願いです
身体だけは大切にしてくださいね
合わせて
ありがとうの言葉を送ります

※自家撞着(じかどうちゃく):同一人物の文章や言動が前後食い違って、合わないこと。自己矛盾。自己撞着とも言う。

▽ 東京マラソンの10kmの部に出場した時には、お母さんと一緒に私の応援に駆けつけてくれた、学院で学ぶ女の子もいました。その時「私も娘と一緒に走りたくなりました」と、その子のお母さんが言ったことを今でも忘れられません。
国リハでは嬉しい出会いもあり、稀に後悔の多い出会いもあり、私の心は悲喜交々に揺れました。
今思い返すと、もう少し辛抱することができたなら、後悔のないお付き合いも出来たのかなと、想ったりもします。後悔跡を絶たず…ではなく、後悔先に立たず…でもなく、後悔先に立たずですね。今更ですが、私は、慎重さに欠けているのかもしれません。
ありがとうございました。
石田眞人でした