第二十号 明鏡止水が如く
新型コロナウイルスの猛威が治まらない中、東京五輪の開会式を7月23日に控え、今でも賛否両論ありますが、中には興奮し唾を飛ばして自分の意見を論じている人もいるようです。
私は腹を立てているときや不満を心に持った時には、今この時自分は人の顔をしているだろうか?と思うことがあります。皆さんはありませんか。
冷淡な人や自分の利益ばかりを追求する人に『人面獣心な人だ…あの人は、人の顔をした鬼だ。人の顔をしているが獣のような心の持ち主だ。』などと言うことがあります。稀には『獣面人心』な人もいますね…冗談はともかく、当たり前ですが、見えなくなってから、鏡を見る習慣は全くなくなりました。
それと同時に、今自分の顔はどんなだろうか?と思うこともあります。そう思うときは決まって、腹を立てているときです。顔の美醜はともかく、顔は他人を不快にさせてしまうか快く思ってもらえるかにおいて大切な存在ですね。
そんなことから、私は会話をするときには相手の顔や目は見えなくても、なるべく、声のする方角に顔を向けて、話しかけてくれている方を見ることにしています。
本人は気付かなくても、心は顔に出るものです。特に、正直者?の私はもろに出てしまうようです。
最初の詩は、思わず汚い言葉を口に出してしまった後に、後悔をする私の心象風景を書いてみました。人に向けた罵りはすぐに自分自身に帰ってきます。そうして、自尊心を自身で傷つけて自己嫌悪に陥り、苦しむことになるのでした。そんな気持ちを思い浮かべながら読んでみてください。

※明鏡止水(めいきょうしすい):邪念がなく、澄み切って落ち着いた心の形容。

〈坂道にかかる虹【後悔先に立たず】〉

心の解毒を
肝臓がしてくれたらいいのにと
右上腹部をさする
腎臓が
心の不要物を
排泄してくれたらいいのにと
こころで言ってみる
無駄だと知りながら
私の胃は
本当に中空器官なのかな
私の腸は
ちゃんと出口があるのかな
私の消化機関は
何も消化できない
私の太鼓腹は
少しも溜めておくことはできない
憤慨したこと
感じたこと
思ったことを
そのまま口にして
人に不快感を与えてしまう
言葉にする前に
グッと飲み込んでしまおうと思うのに
できそうでできない
一度口から出た言葉は
削除することも
蔵にしまいこむことも
ましてや
消しゴムで消し去ることもできず
言葉が独り歩きを始める
雪だるまのように
転がりながら大きくなって
勢いを付けて行く
・・・・
私は終わりのない坂道を登る
色づいた木々を楽しむ
余裕もなく
季節の恵みを味わう
余力もなく
淋漓と汗を流し
淡々と歩く
この先には何が待っているのだろう
心の中に
春一番が吹き
一年分の埃を吹き飛ばしてくれたなら
暗く曇った心に
天使の梯子が刺したなら
夜の闇を
上弦の月が
大地を柔らかく幻想的に
照らし出すように
私の心も 美しく光り出すだろう
あの坂道を駆け上り
空に浮かぶ輝く虹に
誓いを掛けよう
思いを込めて
明鏡止水な
私になるために

※淋漓(りんり):水・汗・血などが、したたり 流れるさま。

▽以前にも書きましたが、見えなくなってから良くも悪くも空想力は膨らみました。
そのためか、嬉しいことも、悔しいことも、心についた傷も、見えているころと比べると大きくなった気がします。
そんなこともあり、自己嫌悪に陥ることも、後悔することも増えました。
それだからこそ、いつも心を平らかに過ごしたいと思うのです。
次の詩は、違った意味で、心を乱される出来事を、詩にしてみました。糖尿病という病だからこその苦悩です。楽しみながら読んでください。

〈腹ペコの唄〉

コペコペコペ
腹減った
目が回る
コペコペ
焼き肉
お刺身
ハンバーグ
かつ丼
ラーメン
カレーライス
コペコペ
草大福
団子
チョコレート
醤油せんべい
ポテトチップス
柿の種
こうも
お腹が減っては戦もできない
紅茶にモンブラン
日本茶にイチゴ大福
モカブレンドに特大シュークリーム
クリームは
生クリームと
カスタードのダブルだぞ
こうも
お腹が減っては考えることもできない
消しゴムで消しても
箒で掃いても
バスタオルで拭っても
妄想は膨らむばかり
色即是空
色即是空
すべては空なのだ
それにしても食べたい
ペコペコだ
てんぷら蕎麦と肉うどん
ちゃんぽんと皿うどん
ホカホカライスとチャーシュー麺
ただのチャーシューではないぞ
でかくてぶあつくて柔らかで
口に放り込めば
とろけて笑顔になるチャーシューだ
コペコペコペ
腹減った
目が回る
コペコペ
サバの塩焼き
サーロインステーキ
もつ煮込み
天丼
もり蕎麦
ロースカツ定食
コペコペ
羊羹
ドーナツ
パンプキンパイ
ジャガバタ
たこ焼き
味噌田楽
神様仏様ご先祖様
コーンスープと玉子サンド
コーラとホットドッグ
とん汁と塩おむすび
しかも沢庵付だぞ
神様仏様ご先祖様
頭の中も
胸の中も
お腹の中さえも
妄想と激想に取りつかれ
食べたさ余って空腹百倍
色即是空
色即是空
すべては空…
ではなく…
すべてを食うぞ
エーイッ 食ってやる
フアフアな
オムライス
とろとろと 煮込んだ
ビーフシチュー
ひき肉たっぷりな
ミートソース
ピりッと辛い
麻婆豆腐
こりこりしたキクラゲ入りの
八宝菜
鶏肉の香味焼き
生生姜を下ろして香りをつけた
豚肉の生姜焼き
牛肉たっぷりなすき焼き
すき焼きだけじゃないぞ
生玉子も付けるのだ
よし 全部喰うぞ
マグロと真鯛と鉄火巻き
それからそれから
ヒラメや鰤の握りずし
餃子と焼売
肉まんとあんまん
甘辛い味噌をたっぷりつけて
炭火で焼いた 焼きまんじゅう
イカのぽっぽ焼き
よし 食べてやる…
だめだ だめだ
一か月は我慢だ
いやいや 一週間の辛抱だ
一週間はきついな
取りあえず
明日まで我慢しよう
僕は 糖尿病なのだから

※焼きまんじゅう:あんこの入っていないお饅頭(最近は、あんこ入りもあるようです)が串に四つ指してあり、甘辛い味噌を塗りながら香ばしく焼いた、群馬のソウルフード。
イカのポッポ焼き:醤油を塗りながら、焼いたイカの丸焼きのことを、岩手ではこう言いました。

▽この詩を読んで、共感してくださった方もいらっしゃったと思います。
私は60年以上生きてきましたが、過去に二人だけ『食べることは大嫌い』と、言い切った人がいました。私としては、天地がひっくり返るほどの驚きとともに、羨ましくもありました。
それと似た経験は「勉強することが大好きだ」と、言った友がいたことでした。私とは性格も優秀さも正反対でしたが、とても良い友達でした。
それこそ『みんな違ってみんな良い』ですね。
ありがとうございました。
石田眞人でした