第八十七号 目から鱗
今回も本の話からで恐縮ですが、以前読んだ浅田次郎の『一路(いちろ)』という江戸末期のお話の中に、「夜空に光る星々の光は、ひとつに見えて一つにあらず。お互い引きあって星座を作っている」と言う一文がありました。それは、私たち人間の姿のように思ったのでした。
ひとりひとりも尊いが、そのひとりひとりが助け合う姿は、夜空の星座のように、より美しいのではないかとふと思ったのでした。
初めの詩は、金属バットで頭を殴られるほどショックを受けた、ラジオから流れてきたお話を詩にしたものです。
どうぞ読んでください。

〈目から鱗〉

この話は確か
私がまだ見えていた頃
ラジオのパーソナリティから
聞いたものである
・・・・
在る駅前で
ある青年が
ある少年に
道を尋ねた
道を尋ねている青年は
どうやら吃音症のようだ
「ししししし市役所はどどどどどどう行ったらいいいいでしょうか?と
たったこれだけのことを
長い長い時間をかけて尋ねたのだった
道を尋ねられた少年は
まるで無視しているかのように
聞こえないふりを通した
青年は
同じ質問を繰り返した
それでも少年は
無視し続けている
それを見かねた
ある高齢の男性は
憤慨し
禿げ頭を
真っ赤に染め
しゃしゃり出て言った
「君!なぜ答えてあげないのか!」と
驚いた少年は
徐ろに口を開いた
「ぼぼぼぼ僕もどどどもりなので
かかからかっているとおおお思われききき気分をわわわ悪くさせてはももも申し訳ないとおおお思ってだだだ黙っていいいました」と
大きく目を開き
言ったのだった
その少年は
青年以上の
吃音症を持っていたのである
少年は
青年に対する思いやりから
口を噤んでいたのであった
私は
自分の思い込みを
呪いたくなり
胸が押しつぶされる程の
痛みを感じた
次には
目から大きな鱗が
音を立てて落ちた

▽ この世の中には、思いもよらない出来事があるものです。己の少ない知識と、拙い経験を恥ずかしく思いました。
次の詩は、たまたま国リハの寮で、同室になった男性と私のことを詩にしてみたものです。
同室の男性は、まだ幼児の頃父の運転する車に、祖母にだっこされて、後部座席に乗り事故にあい、額を強く打ちつけ、弱視になってしまったのでした。
そのために、祖母や父母から砂糖漬けにされて育ってしまったようでした。
どうぞ読んでください。

〈小言を言わせてくれ〉

コリアン先生は
『無駄が人生を作る』
と言っている
しかし
お前は無駄を肥やしにしていない
もっと真剣に自立を考えろ
生活のための努力が必要だ
・・・・
俺もお前と同じなのだぜ
お前は
ご両親の不注意から
目に障害を持ったために
甘えた人生を
過ごしてきただろう
俺はこの歳で
目に障害を持ち
もう一度人生をやり直すため
もう一度自立した生活を
送れるようにならんがために
いま準備している
俺と一緒に
自立の道を目指そうじゃないか
・・・・
俺はなぜか
こんなダメなお前が
大好きなのだぜ
俺自身が
だめな人間だからな
生まれてから今まで
母に心配を
かけ続けて来た俺なのさ
このことは
お前に言ってはいるが
その実は
自分に向けて言い聞かせているのだぜ
だから一緒に
国試合格目指そうぜ
・・・・
おまえはすぐに
人の言動に腹を立てるだろ
人を憎まず
許せる人間にならなきゃいけないぜ
実はいま
二年生の間で
俺に対する流言飛語が
真しやかにささやかれているのさ
それは何かって聞いたかい
今は言えないよ
なぜなら
傷ついてしまう人がいるからね
とどのつまり
学友会のことで
憎まれてしまったのだろう
憎しみは人を狂わすからね
日ごろは目標に向かって
頑張る良い人達だったのにね
憎しみに囚われてから
道を誤ってしまったのさ
・・・・
だからお前も
人を憎むことをやめなさい
人の過ちを
許せる男になれたなら
高倉健のような
かっこいい男になれるぜ
このことは
お前に言ってはいるが
その実は
自分に向けて
言い聞かせているのだぜ
だから一緒に
国試合格目指そうぜ
だから一緒に
男気溢れる人間を目指そうぜ

※ 学友会(がくゆうかい):コクリハで、鍼灸マッサージの国試合格に向けて学んでいる学生たちで作る自治会。
▽ ある本に、大人と子供の違いを書いてありました。
その本には『やらなければならないことを優先するのが大人で、やりたいことを優先するのは子供』と書かれていました。
この定義に、同室の子を当てはめると、36歳になるにもかかわらず、丸々子供なのでした。
長々と書いてしまいましたが、こんかいもありがとうございました。
石田眞人でした