第五十四号 今是昨非
黒澤明監督の作品の中に『天国と地獄』という映画があります。ご存じの方も大勢いらっしゃることでしょう。
では、仏教の教えの中にある『天国と地獄の例え話』をご存じでしょうか。僭越ながら、私、石田眞人なりにそのお話を紹介させていただきます。
「これは、天国と地獄の食事風景を覗いてみたものです。このお話をする前に、地獄と天国に共通するルールを話します。それは、長い長い箸の一番先を持つことひとつです。
ではまず初めに、地獄の食卓を覗いてみましょう。
『大きなテーブルの上には、山の幸、海の幸が食べきれないほど乗っています。そのテーブルを囲む地獄の人たちは、顔中を汗まみれにして、何やら騒いでいます。
よくよく見ると、長い長い箸の先の先をもって思い思いの豪華料理を挟み、口に運ぶのですが、箸が長くて口に入れられずに騒いでいるのでした。豪華料理を目の前にして食べられないことほど辛いことはありません』
では、天国の食卓に目を転じてみましょう。
『すると、天国も地獄も全く同じテーブルがあり、そこに乗っている料理の豪華さも全く同じなのです。そうして、持っている箸も同じく、長い箸なのです。しかし、地獄との違いは、食卓を囲む人たちは、笑顔満面で、何やら会話をしながら美味しそうに食べています。
よくよく見ると、地獄の人たちは、箸でつまんだ料理は、何が何でも自分の口に入れようとしているのに対して、天国の人たちは、お互いに「あぁぁん」と言っているかどうかはわかりませんが、食べさせ合っているのでした』…」
聡い皆さんは、すでにお分かりのことと思います。地獄と天国の違いは『自分のことしか考えていないのか、お互いを思いやる気持ちを持っているのか』という、そこに住む人たちの心構えの違いだったのです。
初めの詩は、自分自身のこと、日本のこと、世界で起きている事件のことに目を向けて書いてみたものです。
人それぞれ感じ方は様々だと思いますが、それは当然のことですね。今このような世の中だからこそ、世界や国や自分自身に目を向けてみることも良いのではないでしょうか。
では読んでみてください。

※今是昨非(こんぜさくひ):今日そして、昨日までの過ちに気づくこと。今までの過ちを悟って悔いること。

〈徒然(ツレヅレ)に〉

徒然に
見上げてみた
そこには一筋の飛行機雲
いつもと変わらぬ秋の空
世界に目を向ければ
国と国の紛争は絶えず
日本に目を転ずれば
自殺やいじめや殺人事件
私の心を覗き見すると
漠然とした屈託がある
世界各国に
諍いや内紛があっても
日本各地で
労しい事件が起きようと
私やあなたに
紆余曲折した未来が待っていても
時は粛々と移ろい行く
・・・・
徒然に
風と遊んでみた
そこには凛とした澄んだ風
いつもと変わらぬ青い冬
空舞う鳶を目で追えば
燦燦と光る蒼穹を泳ぎ
道行く人に目をやれば
なにやらぶつぶつ独り言
自分の明日を想ってみれば
何時しか霧にかすんでる
昨日は
あんなにやるせなくても
今日は
こんなに胸締め付けられても
明日は
そんなに期待できなくても
時の流れは誰にも平等だ

※徒然(ツレヅレ):スることがなくて退屈なこと。また、そのさま。手持ちぶさた。
▽私は、世界情勢や、日本の国のニュースには疎いほうなので、この程度のことしか思いつきませんでしたが、皆さんは皆さんの考えを詩やエッセイにしてみても楽しいのではないでしょうか。
次の詩は、この時に感じた私自身の日々の過ごし方を、心の赴くままに言葉にしてみたものです。やたらと長く、しまりのない詩になってしまいましたが、どうか辛抱して読んでみてください。

〈昨日も今日もたぶん明日からも〉

昨日も今日もたぶん明日からも
私は走り続けます
「走ることに喜びを見いだせない」と
君は言いますが
私は思うのです
考えてばかりいるよりも
行動を起こしてみたらどうだろう
昨日も今日も明日も
そうして次の日もずっと
走り続けることで
何かを感じ
何かを考え
何かと出会う
そんなふうに考えるのです
それは私の
拙い経験値にすぎませんが
時々そんなふうに
自分で自身に云い聞かせているのです
なぜ走るのか
なぜ生きるのか
なぜ夢を追いかけるのか
なぜ涙を流すのか
なぜ笑顔を輝かせるのか
なぜなのか
なぜなぜなぜ
昨日も今日もたぶん明日も
同じことを
続けていることでしょう
なぜならそれこそが
私だからなのです
・・・・
一つの知識から多くの情報を得て
その情報を
行動を通して処理し
処理した情報をもとに
方向性を決め
次の行動を起こす
一回二回三回と
一つの行動を続けることで
やがてその行動が一つの経験になり
その経験は
何時しか価値観に変わり
その人の人となりを形成する
と私は感じているのです
すでに昨日で
2011年の12月になりました
夢にまで見た21世紀は
12年目に突入しようとしています
憧れていた21世紀でしたが
今想うのは
心だけは置いてきぼりだと言うことです
・・・・
憎しみを口にした辛さと
ありがとうを言った喜びと
どちらが多いのか
辛苦に歯を食いしばった日々と
笑顔を向けた日々と
どんな違いがあるのか
自分の幸せを願った心と
隣の人の幸福を願った心と
どちらが光を放つのか
厳しさと優しさ
日照りと大雨
空と海そうして森と風
人の心と自然現象
どう考えて向かい合い
どう行動を起こせばいいのか
やってみて感じてみて
考えて反省し
またやってみて
そうしてまたなにかを感じてみる
それが私なのかもしれません
・・・・
昨日も今日もそうして
たぶん明日からも
走り続けるでしょう
何かと出会い
何かを捨てて
何かを悟り
そうして何かを知るために
今日も明日も
今是昨非を重ねることでしょう

▽どんなに科学が進もうと、心の成長は自分で責任を持つしかありませんね。
この詩は、国リハ(国立障害者リハビリテーションセンター)で学んでいる最中に作ったものでした。
今回は、思いつくままに書いたとても長い詩を紹介させてもらいましたが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
石田眞人でした