第二十七号 花のひとり言
私は、四十の厄年の頃、人生に疲れ果て何もかも嫌になった時期がありました。
その原因は、仏教思想の中にある、四苦八苦のひとつ「怨憎会苦(オンゾウエク)」そのものでした。平たく言えば、極身近な人を愛することができなかったのです。その時には、憎しみで心がおぼれそうになるほどの苦しみを味わいました。いつも同じ空間にいる人を愛せないだけではなく、憎くてたまらないのです。同じ空気を吸うことすら、嫌悪感で息苦しくなるのです。
あんな経験は、今後二度と御免被りたいです。
そのころはまだ見えていたこともあり、阿鼻叫喚な生活から抜け出したくて、夢中で本を読みました。基本的には小説を読んでいるのですが、その時ばかりは、少し色合いの違う本を読みました。具体的に言うと「仏教に関する本」「儒教関係の本」「聖書」「新渡戸稲造の武士道」「コリアン先生のエッセイ集」「ゲーテやマザーテレサの名言集」などなど、片っ端から人生の指針になりそうな本を読みふけりました。
そんな中で、根本的に運勢をあげたくて風水の本を読み、その本の書いてある通りに部屋を飾り付けたこともありました。
今でも覚えていることは『東側に赤いものを置くと健康運アップ・南側に緑色のものを置くと直感力アップ(但し、水槽や池など水をたくさん入れてあるものを置くと、やる気がなくなる。そして赤いものを置くと怒りっぽくなり、すぐにカッカしてしまう)・西側に黄色いものを置くと、金運アップ・北側にオレンジ色のものを置くと財運アップ(財運には子宝運も含む)』。そして、生花は強力なパワーを持っているので、部屋に一輪だけでも飾ると、花のパワーですべての運勢がアップする。と、書いてあったように記憶しています。
初めの詩はその記憶をもとに、国リハの寮の居室に花を飾ったことを書きました。
その時には、ガーベラやバラがお気に入りで、時折花屋に通い、買ってきて飾りました。毎朝、一輪挿しの水を交換していたのですが、そんな時、花に話しかけると、確かに答えが聞こえた…ような…気がしたのです??
そんな詩です…馬鹿な奴と思いながら御笑覧ください。

※ 怨憎会苦(オンゾウエク)とは:憎くて嫌いな人と会う苦しみのこと。
阿鼻叫喚(アビキョウカン)とは:非常な辛苦の中で苦しんでいるさま、または、非常な辛苦の中で泣き叫ぶさま。

〈ガーベラの花〉

小さな小さな一輪挿しと
のびのびと咲いた
オレンジなガーベラが
いかにもアンバランスで
それでいてベストマッチで
ほこほこと温かさが
心にしみてくる
真ん丸に開いた花びらを
そっと両掌で包むと
「こんにちは」と
ガーベラは言った
ガーベラは全身で
水を吸い上げてから
ゆっくりと
僕の心にwinkを送る
それを合図に
僕は「今日も可愛いよ」とガーベラに語りかける
オレンジなガーベラは
頬を薄紅色に染めて
こくりとうなずき
僕に微笑み返す
・・・・
ある日
西に浮かぶ真っ白な雲が
夕焼けに染まるころ
部屋の片隅を彩る
ガーベラに問いかけた
「君は何のために生まれてきたの?」
翌朝
森が静かに目覚めるころに
ガーベラは僕の夢に現れ
不可解な顔を向け
大きく目を見開き言った
「あなたのためよ」
僕はぽかんと口を開け
首をかしげた
「あなたに喜んでもらうために生まれてきたのよ」
ガーベラはおっとりと言った
僕は涙がこみ上げてきた
「障害を持つ僕なんか」…と
心の片隅に
陰陰滅滅と背を丸めた
自分が住んでいる
とかく他人は
幸災楽禍な気持ちに
囚われていると思い続けて来た
・・・・
ガーベラは胸いっぱいに
冷たい水を吸い込む
すると オレンジ色の花びらが
鮮やかにさえ渡る
朝日を浴びて
僕に微笑むガーベラが
やけに眩しくて
切なく見える
恋しくて悲しくて愛しくて…
そんな純真無垢なガーベラが
僕の心を澄み渡らせてくれる
そして 生まれたころのような
醇乎な自分に出会える気がする
涙が心に潤いをくれた
玉響な朝のひと時

※ 幸災楽禍(コウサイラクカ)とは:他人の不幸を喜ぶこと。
醇乎(ジュンコ)とは:心情・行動などが、まじりっけがなく純粋なさま。

▽皆さんも、動物や植物から、話しかけられた経験はありませんか?
私は、鍼師・灸師・あんまマッサージ指圧師の三つの国家資格に、何としても合格したくて、花のパワーを借りたのでした。
おかげさまで、みごと?に三つの国家試験に合格することができました。
次の作品は、本当の出来事へ脚色を加えて書いたものです。たった一本の花が、人それぞれの心に潜む本音を引き出したのですから驚きました。
それは、私の想像をはるかに超えた出来事でした。どうぞ読んでみてください。

<たった一輪の花〉

ある日
俄に思い立った
部屋に花を飾ろうと…
私はそそくさと
駅前の花屋さんへ行き
小さな小さな一輪挿しと
オレンジ色なガーベラを
三本求めた
・・・・
部屋は暖かな光に包まれ
優しい香りに満たされた
ルンルンの心は
いつの間にか忘れかけていた
私の瞳に潤いを与えてくれた
溢れだす愛は
心に季節を運んでくれ
小さな私の花壇は
小さい夢を咲かせてくれる
・・・・
ある日
ひとりの友人が訪れ
「花なんてお金の無駄遣いね」と
冷ややかに言った
次に訪れた友人は
「目が悪くて見えないのに花があってもしょうがないでしょう」と
首をかしげて言った
その次に訪れた友人は
「部屋が明るくなったね」と
心にもないことを
上の空な顔をして
平たく言った
次に訪れた友人は
「素敵ね・・私もお花を買って帰ろうかしら」と
満面な笑顔を作った
・・・
たった一輪の花に
様々な心を見た
ほんの小さな一輪の花が
人の本音を
顕にしてくれ
醇乎な花たちからは
優しさと勇気をもらった
そして
憂き本音も聞こえてきた
なによりも
私に小さな喜びと
大きな明日を
想いださせてくれた
そこから
無限大な
神仏の愛を感じた
そのことは
心のワンピースとして
大事にしまっておこう

▽この出来事こそが、一輪の花のパワーだったように思います。
普段は心の奥に潜め、他人には見せない心を、友は顕わにしたのですからね。
皆さんも、花を飾ってみたらいかがでしょう。もしかしたら、何か良いことが起こるかもしれませんよ。
ありがとうございました。
石田眞人でした